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ANM176臨床観察試験の開始にあたって

会長 中村重信(広島大学名誉教授)

ANM176臨床観察研究会

会長 中村重信(広島大学名誉教授)

アルツハイマー病の現状とANM176®のアルツハイマー病に対する可能性

 アルツハイマー病には、家系にその患者が多い家族性と遺伝とは関係しないが高齢になって発病する孤発性があります。厚生労働省の調査では、2012年には462万人の認知症患者がいて、そのうち67.6%の312万人、つまり、2012年の65歳以上の人口3079万人の10%以上がアルツハイマー病であったと推計しています。このように、近年のアルツハイマー病患者数の急増には、高齢化に伴う孤発性のアルツハイマー病患者数の急増が大きな要因となっており、アルツハイマー病の増加による医療費の増加や介護の負担が、個人においても社会においても大きくのしかかり、深刻な影響を及ぼしています。

 家族性アルツハイマー病の多くは、原因たんぱく質と考えられているβアミロイドたんぱく質(β-amyloid protein 、以下「Aβ」と言います)に関連する遺伝子に変異がありますが、その変異がない孤発性アルツハイマー病においても、脳内で増加したAβが原因となっていると考えられています。Aβがどのようにしてアルツハイマー病を発症させるのか、まだ十分には解明されていませんが、Aβをマウスなどげっ歯類の脳内に注入すると記憶や学習力を阻害し(この作用を以下では「Aβ神経毒性」と言います)、このAβ神経毒性は、少なくとも、アルツハイマー病における認知機能障害の一部を表していると考えられています。Aβ神経毒性を抑制するフェルラ酸と12種類のクマリン化合物が有用成分として配合された食品用製剤ANM176®は、食事で摂り得るレベルの量で効果的にAβ神経毒性を抑制し、アルツハイマー病の進行が軽度ほど有用であることが示されました。このようなことから、ANM176®はアルツハイマー病の改善や予防に対する可能性が考えられます。

ANM176®の概要

 ANM176®に有用成分として配合されているフェルラ酸は植物細胞の原形質膜の外に分泌されるフェノール酸の一種で、フェニルアラニンから何段階かを経て生合成され、細胞壁の構成物質であるリグニン合成の出発原料として植物の細胞壁に広く存在します。また、同じようにANM176®に配合されているガーデンアンゼリカは、漢方生薬のトウキと同じシシウド属の植物で、西洋トウキとも言われ、ヨーロッパでは古くから様々な食品や民間薬として一般に使用されています。

 韓国の翰林大学/生薬研究所(Hallym University Institute of Natural Medicine)のSong教授(Dr.Dong-Keun Song)らは、Aβ神経毒性を評価する方法を工夫し、健忘に有効であると伝承されていたトウキに含まれるAβ神経毒性抑制成分をスクリーニングしました。その結果、トウキにはAβ神経毒性を抑制するフェルラ酸と12種のクマリン化合物が含まれていることを発見しました。このSong教授らの研究を支援したサイジェニック社(Scigenic Co.,Ltd, Seoul)は、まず、トウキの1種である「韓国トウキ」を原料に、13種類のAβ神経毒性抑制成分が規定量含まれる医薬用製剤INM®176を開発しました。INM®176に続いて、食品用製剤の開発に着手したサイジェニック社は、トウキは医薬品の範疇に入るため、トウキと同じシシウド属のガーデンアンゼリカに着目しました。しかし、ガーデンアンゼリカにはヒトでも吸収できるフェルラ酸が含まれていないため、食品用のフェルラ酸が加えられました。また、ガーデンアンゼリカにおいてもAβ神経毒性を抑制する12種類のクマリン化合物が著しくバラつくため、これらのクマリン化合物が一定量含まれるように規格化されたANM176®が開発されました。

ANM176ヒト試験の内容と今後

 ANM176®は、マウスを用いた試験で、フェルラ酸単品やINM®176等と比較して、最も効果的にAβ神経毒性を抑制することが確認されました。その後、2007年から2008年にかけ143名の幅広い進行程度のアルツハイマー病を対象に行った試験で、進行程度が軽度ほど、65歳前に発病した場合より65歳を過ぎてから発病した場合の方が、認知機能の低下を抑制する効果が高いことを示しました。この試験結果は、Geriatric Medicine 2008年12月号で「Ferulic acidとgarden angelica根抽出物製剤ANM176®がアルツハイマー病患者の認知機能に及ぼす影響」と題して報告しました。
この試験で、試験開始時に比較して9ヵ月後のアルツハイマー病用心理テストADAS-Jcogの合計点が同等もしくは改善していた症例の占める割合(悪化抑制率)は、全体では45%でしたが、試験開始時の認知症簡便尺度MMSEが24以上であった11例では81%でした(症例数が少なく有意差は示せませんでした)。0~30の範囲で表すMMSE評価は高い数値ほど正常に近いことを示し、24以上は認知症ではない可能性があります。

 この試験参加者は、ANM176®を朝と夕に300mgずつ9ヵ月間にわたり継続して使用し、3ヵ月ごとにADAS-JcogもしくはMMSEで評価しました。ANM176®の300mgには、フェルラ酸とAβ神経毒性を抑制する12種類のクマリン化合物を一定量含むガーデンアンゼリカ根抽出物(garden angelica root extract、以下では「GARE」と言います)が、それぞれ100mg配合されています。

 ヒトが吸収できるフェルラ酸は、通常の食品にはほとんど含まれていませんが、米と小麦のヌカ部分には、他の植物や部位とは比較にならない多量のフェルラ酸が、ヒトでも吸収できる状態で含まれています。例えば、穀粒1Kg当たりのフェルラ酸含量は、米では100mg、小麦では300~500mgです。しかし、ヌカ部分を完全に取り除いた白米や精白小麦粉にはヒトでも吸収できるフェルラ酸は全く含まれておらず、穀物以外から摂れるフェルラ酸は1日あたり数mg程度です。一方、GAREの100mgはガーデンアンゼリカ乾燥根の約1gに相当し、ヨーロッパの民間薬で使用されている1日当たりの使用量(0.3~12g)に比しても低いレベルです。このように、食品として常識的な量の成分が相乗的に働いてAβ神経毒性を抑制するANM176®に医薬品のようなアルツハイマー病の進行を抑制する効果があったとしても、食事の不足成分を補給するANM176®はサプリメントとして位置付けられるべきです。また、ANM176®はアルツハイマー病が軽度ほど有用であったことやAβ神経毒性を抑制する成分が現代の食事では摂れていないことから、アルツハイマー病の予防に対するANM176®の効果も期待されます。

ANM176臨床観察試験の目的と意義

 軽度認知障害(mild cognitive impairment、以下では「MCI」と言います)とよばれる認知症ではないが強い記憶障害がある症状の研究が進んでおり、MCIにはアルツハイマー病の前駆段階も含まれていると言われています。そこで、ANM176®の利用者を定期的に検査し、その中から、MCI症例者を対象群と比較してANM176®がアルツハイマー病症状の予防に有用であることを示す『ANM176臨床観察試験』の計画が、2008年に報告した第1回目の試験関係者を中心に策定されました。

 この計画には、今までに経験したことがない評価方法やデータ管理方法が含まれています。例えば、MCIの経時的な変化を評価する適切な検査方法が見当たらないため、複数のMCIスクリーニング方法の下位項目を組み合わせた独自の方法で経時変化を観察します。一方、ANM176®を利用しているアルツハイマー病以外の症例者の経時的な変化を他の症例群と比較します。また、MCI症例者の日常生活活動と認知症患者の介護度や周辺症状を試験参加者と日常生活を共にしている方や介護者によるアンケートによって調査します。

 また、多数の研究者が参画する大規模な共同研究のデータを均質化させるため、この試験の推進母体となる「ANM176臨床観察研究会」がセントラルデータマネジメント方式で、参加者エントリーの窓口、参加者フォロー、データの管理等の業務を行います。この計画が実際に機能するか、まずは2013年9月から2014年3月まで予備試験を行い、不備や不都合な部分を修正した上で本試験を行うという2段構えで計画しています。

 アルツハイマー病を予防できれば、その意義は計り知れないほど大きいことに論議の余地はありません。しかし、予防に有効であることを示すことは著しく困難であることも周知の通りです。プラセボの確保、大規模な研究を実施する資金やサポート体制など、多くの困難が予想されますが、様々な関係者のご協力を得て、この試験が実現できます。まずは、この研究の母体であるANM176臨床観察研究会に参画される認知症専門医や看護関係者には、参加者の診断や経時試験のお手数をお掛けすることになります。また、この試験に参加されるANM176®のご利用者には、定期的に検査を受けていただかなければなりません。ANM176®のメーカーや流通業者にも資金やサポートのご支援をいただかなければなりません。皆様のご協力をいただいて得たデータがアルツハイマー病の予防に役立って、初めて、ご協力いただいた皆様への恩返しができると思っております。

 2013年9月