ANM176®に配合されているフェルラ酸は、脳内にあるアルツハイマー病の原因タンパク質と考えられているβアミロイドたんぱく質※1(β-amyloid protein 、以下「Aβ」といいます)低下に関与する可能性が推定される研究成果が報告されています。
2001年に、翰林大学/生薬研究所のSong教授らは、漢方生薬のトウキに含まれるAβ神経毒性抑制※2成分を同定し、その成分の1つであるフェルラ酸のAβ神経毒性抑制作用についての研究成果を発表しました1)。
2013年には、重要な研究結果が2つ報告されました。
そのひとつは、順天堂大学大学院の上野隆教授らが初めて発表した、フェルラ酸が細胞内を浄化するシステムであるオートファジーを誘導することです2)。
2つめは、Song教授らが明らかにした、脳内にAβが蓄積するAPP/PS1変異マウスに6ヵ月間フェルラ酸を与えると、脳内のAβ濃度が低下することです。また同時に、この長期投与のフェルラ酸によって炎症性サイトカインIL-1βの脳内発現が減り、記憶力や認知機能が改善しました3)。
下記に、2013年の2つの研究結果の解説を記載します。
順天堂大学大学院の上野隆教授らは、フェルラ酸が細胞内を浄化するシステムであるオートファジーを誘導することを初めて発表しました。このフェルラ酸によるオートファジーの誘導は、オートファジー誘導剤ラパマイシンと同程度でした2)。
細胞内の構造物を分解するオートファジー機構には、飢餓などのストレスによって起動する誘導性のオートファジーと、低位ではあるが恒常的に起動している基底オートファジーがあります。細胞内は、基底オートファジーによって、常に一定のスピードで浄化されています。神経細胞のように生まれ変わることがない細胞では細胞内を浄化する基底オートファジーは特に重要です。また、基底オートファジーは老化に伴い低下すると考えられています4)。
脳内神経細胞が変質して起こる神経変性疾患とオートファジーとの関係についてはハンチントン病とパーキンソン病が有名で、ハンチントン病の場合は原因タンパク質ハンチンチンの凝集がオートファジーで抑制されることが示されており、また、パーキンソン病の場合は原因タンパク質の1つであるパーキンがミトコンドリアのオートファジーと関係していると報告されています。またアルツハイマー病関連では、オートファジーは毒性のない繊維状Aβ形成を促進し、Aβ神経毒性やAβによる神経細胞アポトーシス(細胞死)を抑制できるとも考えられています5)。
高齢になると、Aβ分解力やストレス耐性が低下します。オートファジーとアルツハイマー病の関係は、まだ、明確ではありませんが、最近、培養細胞で、ラパマイシン誘導剤によってAβの解消が促進され6)、また、アルツハイマー病患者に他の目的で使用した医薬品がオートファジーの制御に効果があることが分かり、オートファジーはアルツハイマー病用の医薬品ターゲットになり得る可能性を暗示しています5)。
基底オートファジーの増強が、脳内Aβの低下に関係しているか否は、まだ、明らかではありませんが、少なくとも、神経細胞内のホメオスタシスに寄与している可能性は考えられます。
Song教授らによるフェルラ酸のAβ神経毒性抑制作用についての報告から既に12年が過ぎ、世界中の多くの研究者によって、Aβ神経毒性作用やフェルラ酸のAβ神経毒性抑制作用についての解明が推し進められてきました。
2013年に、Song教授らは、脳内にAβが蓄積するAPP/PS1変異マウスに6ヵ月間フェルラ酸を与えると、脳内のAβ濃度が低下することを明らかにしました。また同時に、この長期投与のフェルラ酸によって炎症性サイトカインIL-1βの脳内発現が減り、記憶力や認知機能が改善しました3)。
Song教授らが2001年に報告した研究は、マウスの第三脳室にマイクロ注入した42個のアミノ酸から成るAβ1-42がひき起こしたAβ神経毒性を、フェルラ酸が事前に投与した濃度と期間に依存して抑制するという内容で1)、必ずしもアルツハイマー病の全てを現した実験系ではありませんでした。しかし、この度の報告は、Aβを脳内に蓄積するアルツハイマー病モデルマウスに6ヵ月間与えたフェルラ酸がAβの蓄積を抑制し、記憶や認知機能の低下を抑制したという内容で、実際のアルツハイマー病に近い実験系で、フェルラ酸がアルツハイマー病の予防や進行に可能性があることを示唆しています。
上野隆教授が報告したフェルラ酸FAによる基底オートファジーの増強が、Song博士らが報告した脳内Aβ量の低下に関係していることが考えられます。フェルラ酸は、高齢になると低下する基底オートファジーのレベルを上昇させ、Aβの蓄積を抑制し、記憶や認知機能の低下を抑制することが示唆され、フェルラ酸はアルツハイマー病の予防に可能性があることが推察されます。
これらの報告によって、フェルラ酸が脳内のアルツハイマー病の原因タンパク質だと考えられているβアミロイドたんぱく質低下に関与する可能性が推定されるようになり、フェルラ酸とAβ神経毒性※2抑制力のあるガーデンアンゼリカ根の抽出物を配合したANM176®がアルツハイマー病の予防や改善に対する可能性がさらに高まってきました。
- ※1 脳内に存在する物質で、若い頃は一定の低い濃度だが、高齢になると増加する。ある特定の集まり方をしたAβの塊は細胞に有毒で、場合によっては細胞を死に至らせるほどである。アルツハイマー病の原因物質と考えられているが、どのようにしてアルツハイマー病をひき起こすのか、まだよくわかっていない。
- ※2 Aβが持つ、記憶や認知機能を障害する神経毒性
●参考文献
- 1) Yan JJ, Cho JY, Kim HS, Kim KL, Jung JS, Huh SO, Suh HW, Kim YH, Song DK [Protection against β-amyloid peptide toxicity in vivo with long-term administration of ferulic acid] British J Pharmacol. (2001) 133: 89-96
- 2) Bian Z, Furuya N, Zheng DM, Oliva Trejo JA, Tada N, Ezaki J, Ueno T [Ferulic acid induces mammalian target of rapamycin inactivation in cultured mammalian cells] Biol. Pharm. Bull. (2013) 36(1):120-4
- 3) Yan JJ, Jung JS, Kim TK, Hasan A, Hong CW, Nam JS, Song DK [Protective effects of ferulic acid in amyloid precursor protein plus presenilin-1 transgenic mouse model of Alzheimer disease] Biol. Pharm. Bull. (2013) 36(1):140-3
- 4) Uddin MN, Nishio N, Ito S, Suzuki H, Isobe K [Autophagic activity in thymus and liver during aging] Age (Dordr). (2012) 34(1):75-85
- 5) Tung YT, Wang BJ, Hu MK, Hsu WM, Lee H, Huang WP, Liao YF [Autophagy: a double-edged sword in Alzheimer's disease] J. Biosci. (2012) 37(1):157-65
- 6) Tian Y, Bustos V, Flajolet M, Greengard P [A smallmolecule enhancer of autophagy decreases levels of Abeta and APP-CTF via Atg5-dependent autophagy pathway] FASEB J. (2011) 25:1934-42